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東京地方裁判所 昭和45年(ワ)2746号 判決

原告 株式会社三和電機製作所

被告 大同開発株式会社

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者双方の申立

一、原告訴訟代理人は、「被告は原告に対し、金五十九万七千百円及びこれに対する昭和四十五年四月三日から右支払済に至る迄年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求めた。

二、被告代表者は主文と同旨の判決を求めた。

第二当事者双方の主張

一、原告の請求原因

(一)  原告は被告振出の別紙手形目録記載の約束手形一通につき、被告のため手形上の保証をなした。

(二)  右手形はもと満期を昭和三十一年四月二十日、振出日を昭和三十年十二月二十日とするほかは、手形要件の記載、手形保証人等において該手形と同じの手形の数次に亘る書換後の手形であるが、更にその振出後においても、受取人佐々木保との間において、満期の日のみを昭和四十三年四月二十日、次で昭和四十四年四月二十日に順次書換えをなすうち、同日迄にその手形金内金五百十一万八千円が支払われた。

(三)  ところが、右昭和四十四年四月二十日に佐々木保は右手形金残額の千百九十四万二千円の債権を訴外新井新に譲渡し、原被告はこれを承諾したが、昭和四十五年二月二十八日に原告及び新井間の東京簡易裁判所昭和四十五年(イ)第七七号和解申立事件において右手形上の保証債務の履行として、原告は新井に対し、右譲渡にかかる債権残額の存在を承認し、これを同年三月以降、毎年三月、六月、九月及び十二月の各月二十日限り(年四回)総回数二十回に亘り金五十九万七千百円宛に分割して弁済すること等を内容とする和解調書が成立するに至つた。

(四)  原告は右和解に基づき、昭和四十五年三月二十日に新井に対して金五十九万七千百円を支払つた。

(五)  よつて原告は求償権の行使として、主債務者たる被告に対し、右弁済金五十九万七千百円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和四十五年四月三日から右支払済に至る迄民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二、原告の請求原因に対する被告の答弁並びに抗弁

(一)  答弁

原告の請求原因第一項の事実を認める。

同第二項中、原告主張の約束手形金内金五百十一万八千円が支払われたことは認める。

同第三項中、原告主張の日に主張の債権が佐々木保から新井新に譲渡されたことは認めるが、その余の事実は不知

同第四項の事実は不知

(二)  抗弁

被告は東京地方裁判所昭和三十一年(コ)第二〇号和議申立事件において昭和三十二年一月二十一日午後三時和議開始の決定を、同年四月十九日和議認可の決定を夫々受け、該認可決定は確定をみたので、その認可にかかる和議条件、すなわち、1和議債権者はすべて元利金債権全額の七割を免除すること、2残額債権はそのまま据置き昭和三十四年十二月二十日を第一回とし、以後六回に亘り毎年十二月二十日に均等割で年賦支払うこと等の各条件にしたがつて、原告主張の和議債権たる別紙手形目録記載の約束手形金債権についてその三割、すなわち、原告主張の内金額の五百十一万八千円を支払つたのである(右支払の状況は、昭和四十二年四月二十日に内金百七十万円、昭和四十三年四月二十日に内金百七十万円、昭和四十四年四月二十日残金百七十一万八千円である。)。

したがつて被告としては、本件手形金債権については、右和議条件を履行して、その残余の七割の部分について免責を受けたのであるから、原告がこの部分について代位弁済をなしても、その求償に応ずべき義務はない。

三、被告の抗弁に対する原告の答弁

被告の抗弁事実は全て認める。しかし、和議によつても、主たる債務の範囲は減縮せず、ただその責任だけが減縮するのであるから、主たる債務者たる被告は和議にとりこまれた責任財産以外の財産に基づき保証人の求償に応ずべきものである。

第三立証〈省略〉

理由

原告の請求原因第一項の事実及び同第二項中、原告主張の約束手形金内金五百十一万八千円が支払われたこと並びに被告の抗弁事実はいずれも当事者間に争がなく、原告の請求原因第二項中その余の事実は、被告において明らかに争わないから自白したものと看做す。

ところで和議法における和議が、和議債権者の、和議債務者の保証人に対して有する権利になんらの影響を及ぼすものでないことは和議法第五十七条破産法第三百二十六条第二項に明定するところであり、また和議債権者に一部の支払をして残債権を免責されるべき条件の和議認可決定が確定した場合において、債権者がその債権の全額につき和議債権者としてその権利を行い、且つ和議債務者から和議条件に定める非免責部分についての全ての履行を受けた後においては、保証人は右保証債務の履行として主たる債務の免責部分に対して弁済をなしても、和議債務者に対してその求償をなす余地もないことは、和議法第四十五条破産法第二十六条第一、二項によつてこれを窺うことができるところである。

これを要するに、和議取消によつて破産に移行した場合ならともかく、右例の如く和議条件が履行されている段階においてしかも求償の余地もない、いわゆる免責部分に対する保証債務の履行は、抑も、求償債権が和議法第四十五条破産法第二十三条第二項の将来の請求権たる和議債権として和議法第五十七条破産法第三百二十六条第一項により和議条件に定める免責の効果を受け、その結果の損失として自らの負担に帰せざるを得ない部分の履行にあたることとなるのである。

これを本件についてみるに、当事者間に争いなき原告主張の債権譲渡は、前記認定事実に徴すれば、佐々木保が和議債務者たる被告に対し、別紙手形目録記載の本件約束手形金債権全額につき、和議債権者としてその権利を行使し(右手形金債権が和議債権であることは当事者間に争がない)、同債権のうち、前記認定の和議条件に定める非免責の割合である三割について弁済を受けたその剰余の、いわば免責部分を譲渡し、これに原告の負うべき保証債務が随伴することとなつたものと解せられるから(利息金部分の譲渡については、なんらの主張立証がない)、原告において右債権の譲受人たる新井新に対して、右保証債務の履行として主張の一部の弁済をなしても、それは保証人としても和議条件に定める免責に基づき損失を負担せざるを得ない部分における債務の履行であつて、被告に対してその求償を訴求する余地は全くないものというべきである。

ところで、原告は和議債務者は和議にとりこまれた財産以外の財産から保証人の求償に応ずべき義務があると主張するけれども、原告の被告に対する本件求償債権は結局のところ、自然債務の性質を有するものと解するほかないことは前述のところからも明らかなところであり、また、和議においては破産手続における破産財団・新得財産の如く、責任の範囲を異にする財産が夫々存在するわけではないから、右主張は採用し難い。

したがつて、原告の本訴請求は、その余の点の判断を尽すまでもなく、理由がないことは明らかであるから、これを棄却すべきである。

よつて訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 鈴木健嗣朗)

(別紙)手形目録

金額(円) 満期昭和年月日 支払地及び振出地 支払場所 振出日昭和年月日 振出人 受取人

一七、〇六〇、〇〇〇 四二、四、二〇 東京都中央区 被告会社 四一、四、二〇 被告会社 佐々木保

以上

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